新英米文学会では、毎年、特定の作品を研究テーマとして決定し、それに基づいて研究論文を選定します。その論文を、4月~7月の月例会で取り上げ議論しています。これに平行して、カジュアルな読書会を開催しています。
2011年度のテーマ:アイリス・マードック『海よ、海』
1999年に79歳でアルツハイマー病を患いアイリス・マードックが亡くなってから10年以上となる。生前は、マードック文学に好意的なA.S.ByattのDegree of Freedom: The Early Novels of Iris Murdoch (1965. New Ed. Vintage: London, 1994) を含めても数えるほどしかなかった批評書が、近年相次いで出版されている。欧米でのここ数年間のアイリス・マードック研究の盛り上がりは、善悪の相対性を問い直そうとする時代の欲求に彼女の哲学が応えての結果である。(マードックは哲学者であり、ヴィトゲンシュタインの影響色濃いケンブリッジ大学で哲学の専門家となり、オックスフォード大学アン・カレッジでは1948年から63年まで哲学をフルタイムで教えていた。)
時代遅れとされてきたマードックの道徳哲学理論は、改めて再評価され注目されている。文学者マードックは、哲学が表現できない世界を小説に描き、文学は読者に深く考えさせるもので、真摯な文学研究は読者に道徳的恩恵をもたらすと主張した。20世紀後期文学理論は倫理と文学の関係が中心に論じられるが、マードックはこの文学理論における「倫理への転換」(The Ethical Turn)を擁護する代表的存在として引用される。
そして、マードックの文学は、自由、愛、善、苦しみといった人間存在にかかわる心の葛藤を描き、人生の真実をみつめている。現在、哲学の再評価と同様に、マードック文学は、さまざまな視点からの研究が国際的に進み活発になり、イギリス文学における20世紀後期の最も偉大な作家として評価がかたまりつつある。
『海よ、海』はアイリス・マードックの小説26作品の19番目の作品である。例会でとりあげる批評は、文学者に限らず哲学者の論文も含めた。また、現在の批評の流れに大きな影響を持つと思われる批評から『海よ、海』論を中心に選んだ。4月、6月、7月の例会では、次にあげる6論を各月2編ずつ各レポーターが紹介する。

