政府は、本年3月7日、日本学術会議法案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、衆議院に提出しました。これは「国の特別の機関」とされている現行の日本学術会議(以下「学術会議」という。)を廃止し、特殊法人「日本学術会議」(以下「新法人」という。)を新設するものです。
学術会議は、ナショナル・アカデミーとして、(a)学術的に国を代表する機関としての地位、(b)そのための公的資格の付与、(c)国家財政支出による安定した財政基盤、(d)活動面での政府からの独立、(e)会員選考における自主性・独立性、の5つの要件の重視を提示しています。
しかし、この新法人のもとでは、内閣総理大臣が法人の「監事」を任命したり、会員選考では会員以外の者で構成される「会員候補者選定助言委員会」の意見を聴いたり、また年度ごとの実績を内閣総理大臣が任命する「評価委員会」が評価することなどが条件付けられており、上記5つの要件を満たす現行の日本学術会議は到底存続できなくなるでしょう。外部からの介入が容易となり、政府や財界の意向に合わない見解や人物が遠ざけられる可能性が高まることは想像に難くありません。「日本学術会議」という名前は冠されるものの、その実態はこれまでの活動の歴史と実績が全く受け継がれない異質の組織と言わざるをえません。
現在の学術会議設立の背景には、かつて戦前の日本において政府主導の言論統制や軍事に当時の学問や科学が動員されたことへの反省があります。学術会議の法人化は、その理念である学問の自主性や自律を大きく毀損するものであると私たちは危惧します。
新英米文学会は、断固として学術会議の法人化への反対を表明いたします。